クルマ、好きです♪

クルマはテクノロジーの集合体で、移動の為の機械としてだけではなく、見た目のデザインや操作した時の感触など五感を全て使って味わうことができる、芸術品としての位置づけに近い楽しみ方もできる、魅力的な道具である。今までに関わりをもったクルマ達を紹介していこうと思う。

 

カリーナ1600

ボクがまだ小学生だった頃、まず母が免許を取って買ったクルマは中古のカリーナだった。1600 Super Delux 3ATで当時はまだ少なかったクーラーと8トラックカセットが付いていた。自分でこのクルマを運転することはなかったけど、後ろに乗っていてなかなか快適なクルマだった。そこそこ早いしサスのストロークはタップリしているし、5人家族にとって何も不満はなかった。

特に大きな故障も無かったように思う。車検のとき以外はずっと家の駐車場にあったからね。デザインもリアの縦型ランプが洒落ていて、自分ではこれがとても気に入っていた。しかしこのカタログのクルマの色は凄いよね。この外にもくすんだ緑とかも載っててビックリなのだけど、我が家のは白だった。この時代はまだメタリック塗装って無くてソリッドばかりだったのだね。

 

三菱ミラージュ1600 

自分の免許を取ったのは大学最後の夏だった。就職が内定していた会社から「入社までに免許を取って来てください」と言われたからだった。それまでに取るのは授業と実験とレポートで手一杯でちょっと無理だったし、会社から言われなかったらそのタイミングでも取らなかったかもしれない。

入社して翌年の夏だったと思うけど、ボーナスを頭金にしてミラージュ1600を買ったのだ。色はまさにこの画像と同じ黄色で、4速MTに副変速機が付いた、つまり8速MT?という変わったギアだった。

ボクの弟が近所の中古屋のおやじさんの子と同級だったので、前々から知っていた。迷わずその店に行ったところ、おやじさんはスターレット1300MTを勧める。最初はこれくらい(マイルド)のがいいんだ、という。

これがその時のスターレットで、KP61といってひところは人気があったのだけど、ボクは試乗してみてちっとも面白く感じなかった。エンジンもシャーシも眠くて何も楽しいことがなかったよ。その時お店にはいすゞ117クーペもあって、もう少し予算があったらあのエレガントなクルマを買っていたと思うけど、無理しないで買えそうなクルマにミラージュがあったのだ。

試乗させてもらったところムチャクチャ面白くて、一時間近く近所を走り回って、呆れた顔をして待っていたおやじさんに「これにします」と告げたのだった。今思うと外観のデザインやタータンチェック様の内装ファブリックなどどこもかしこも陽気で、そのフィーリングと走りの感覚がマッチしていたんだと思う。

まだ重ステで不等長シャフトのFFだったから、お世辞にもマナーが良いハンドルフィーリングではなかったが、それを補って余りあるエンジンのトルクとダイレクト感の強いシャーシが魅力的だった。ミラージュで1600というのは一番大きなエンジンを積むモデルだったので、ちょっと無骨なドライブフィーリングに魅力を感じたのだと思う。更にエンジンは電子制御以前なので、好きなようにいじることができた。点火タイミングを微調整するネジが回せるようになっていたので、これをいじって低速トルク型にしたり高回転型にしたりとその日の気分で味付けを変えるのがお気に入りだったのだ。

このクルマに何年乗ったかは忘れてしまったが、当時の国産車はまだまだ安普請でボディもシャーシもエンジンもガタガタになってしまい、次のクルマに乗り換えるときが来るのだった。

 

HONDA ビガー 2000

このクルマも中古だった。ミラージュがもうダメになり、経緯は忘れてしまったが家のクルマとして父が購入したのだった。DOHCで前後ともダブルウィッシュボーンでリトラクタブルヘッドライトのウェッジシャイプボディと、今にして思えばバブルに向かって突っ走っていたクルマだったのだと気づくのであった。

パワステは軽くハンドル径も小さく、エンジンはDOHCなのにロングストロークなので低速からトルクが十分にあり、サスはかなり軟らか目なのにストロークは無かった。つまり良く整備されたフラットな路面ではハイパフォーマンスなクルマに思えるが、ラフなアクセル・ブレーキ・ハンドル操作での姿勢の乱れが大きく、ギャップやうねりに出会うとガツンとボトムしてしまうのだった。

結局のところカタログを飾るスペックは殆どあてにならず、実際に乗って操ってみないと何も分からないということを痛感したクルマであった。こう書くと酷いクルマだったように見えてしまうが、それほど悪くもなく、ちょっとインテリっぽいバブル臭を漂わせた外観や、ヒタヒタと路面をなめる様に走る足回りのセッティングはなかなかいい味出していたと思うのだ。同じ頃トヨタはマークII3兄弟でブイブイいわせていたから、それと比べたらIQは上だと思う。

このクルマを乗りつぶす前にボク自身が家を出ることになって、最期まで看取ることはできなかったが、ボディーのやれはどんどん進行していたし、内装のスイッチ類がバカになったりしてお迎えがくることになったのだった。

 

日産プリメーラ 2000

実家を出て所帯を持ちまだ子供はいなかったので共稼ぎ生活。時はバブルの余韻がまだプンプンしていた時代、それまでに一度も新車に乗ったことがなかったという思いに端を発し、サンルーフ・本皮シート・フルタイム4WDと、あこがれていたものを一度に手に入れるべくこのクルマを注文したのだった。購入前に試乗を願ったが4WDの試乗車は無くFFでの試乗となり、この時の印象がすこぶる良かったので購入を決意したのだが、後になってそのクルマは試乗車スペシャルだったと察することになった。

FFから4WDを比較した時、重量増と機械ロスから2割引きで見れば十分だと思われるが、納車されたクルマは実際にはそんなものではなく4割くらい引かないと感覚的には合わないものだった。ゼロ加速を比較したらそれほど差は大きくはないかもしれないが、運動能力全般の実感と燃費の悪さからこの車のセッティングのまずさを感じたのだった。しかし雪道や雨天の高速道路、あるいは法を大きく超える超高速での安定性や安心感だけは他のクルマに無い優れたものだった。

サンルーフや本皮シートも所有欲を満たしてくれた。しかしクルマの基本に愛着がわかなかったので、価値が高いうちにもっと自分が本当に納得のいくクルマと入れ替えようと決意するのにそう時間は掛からなかった。結局新車であることは何も意味が無かったのであった。それはそもそもボクが機械好きで、中古車のコンディションと価格の相関を自分なりに理解できたからなのだとこの頃気づいた。そうであればお得な中古車を自分の目を信じて手に入れることが、経済的にも趣味的にも自分の選ぶ道であると理解した。

このクルマ、もし試乗車スペシャルが納車されていたら長く乗っていたかもしれない。それくらい試乗車の印象は強烈で、20年経った今でも鮮明に思い出せるものだった。だから納車されたクルマも決して悪くはなかったのだが、人間の知恵が行き届いていないことに関しては新車であることと無関係であり、愛着が湧かなかったのだ。

 

メルセデス・ベンツ 190E

プリメーラを売り払い次に買ったのはベンツ190Eの5年落ちだった。このクルマはプリメーラを買うときに競合候補に上がっていて、試乗もしたことがあったのだった。5年落ち7万kmの中古だったがかつて試乗した時の感触と全く違わなかったので、購入を決意した。

さすが自動車を発明したと名乗っている企業の製品だけあって、何から何まで桁違いの労力を使って企画・設計・試作・改良・製造・検査が行われていることが伝わってくるクルマだった。このクルマの良さは、とにかく安心であることだった。運転しているのは自分だが、クルマに全てを委ねてしまっても大丈夫という信頼感があった。まさに意のままに操れる「自由に動く車」であった。自分だけでなく妻も運転することを考えると、なお更この信頼感は重要な意味を持つのであった。

細かいトラブルが無いわけではなかったし、あとになって考えるとメーター戻ししてあったと思われたのだが、そういうことを差し引いても余りある満足感が与えられた。

年式によって外観や色のバリエーションは様々だが、ボクのクルマはこの画像と全く同じスペックであった。この色が気に入って購入を決めたようなものだった。かつてのメルセデスにはこのように緑系カラーが必ずあったのだが、今では日本仕様にはなくなってしまった。恐らく高級感に結びつかないからなのだと思うが、この色のたたずまいはとても心がなごむものであった。

このクルマは言うまでも無く、ひとつの「世界最高」なクルマである。ただ一つの世界一ということではなく、このサイズの乗用車として国際標準であると公言しても、誰もが認めてくれるクルマであるという意味である。ボクが家族とともに乗るクルマのサイズは概ねこのあたりなわけで、自分は「世界標準=自動車のメートル原器」を手に入れたのであった。クルマとは何か、どうあるべきか、なぜそのように機能するのかといった本質的なことを理解させてくれるクルマだった。そして自分の中に明確な「クルマ評価ゲージ」が出来上がったのだった。

今でも鮮明に思い出せる出来事に、プリメーラでここには書けないかなりのハイペースで首都高を運転中に、合流部分で自分の前を横切った190Eの動きがある。ボクは幹線の左車線を走っていたが左から入ってきた190Eは追い越し車線まで一気に2車線またぎをし、スポッと吸い込まれるように追い越し車線に貼り付いて先へ行ってしまった。プリメーラを含め不安なくそんな動きができるクルマをボクは知らなかった。

もちろんサスを縮めてガチガチにしワイドファットなタイヤを履かせれば、そういう限界を高めることはできるが、伸びやかなリアサス+185・65・15のスリムなタイヤでこんなに安定して軽やかな動きができるなんて、まさに魔法のようだと思ったのだった。

その190Eは最初左に居たのでボクの前を通過するときはまだ左に傾いていたのだが、結構なロール姿勢だった。しかし右車線で直進に戻る時、なにも乱れが発生しないでブレーキも踏まずにまさに一瞬で直進体制に入ったのだった。恐らく運転している本人は行きたい方向にハンドルを切っただけなのだと思うけど、他のクルマで同じことをやろうとしたら間違いなくZ軸方向に大きく乱れ二度三度ハンドル修正が必要だったと思う。

この体験があったから、やはりどうしても190Eに乗りたいと思ったのだった。